リーンエンタープライズ――イノベーションを実現する創発的な組織づくり
リーン顧客開発――「売れないリスク」を極小化する技術
Lean Analytics――スタートアップのためのデータ解析と活用法
Lean UX――リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン
Running Lean――実践リーンスタートアップ
シリーズエディタ「エリック・リース」について
エリック・リースは、企業家であり、『リーン・スタートアップ――ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』を執筆したベストセラー作家でもあります。彼が三度目のスタートアップとして共同設立したIMVUではCTOを務めました。数々のスタートアップ、大企業、およびベンチャーキャピタル企業へビジネスおよび製品戦略上のアドバイスを提供しています。彼のリーンスタートアップの方法論は、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリートジャーナル、ハーバード・ビジネス・レビュー、およびHuffington Postで紹介されています。ハーバード・ビジネス・スクールのアントレプレナー・イン・レジデンス。人気ブログ「Startup Lessons Learned」を執筆。
『Running Lean』著者 アッシュ・マウリャ氏インタビュー
Running Lean手法とは?
1)Running Leanとは何でしょうか。
Running Leanとは、新製品のアイデアを吟味して、成功する製品となる確率を上げる体系的なプロセスです。
Running Leanは、複数の方法論を組み合わせたものです。特に重要なのは、リーンスタートアップ・顧客開発・ブートストラッピングの3つです。
2)なぜスタートアップは失敗するのでしょうか。どうすれば失敗を回避できると思いますか。
失敗するいちばんの理由は、製品づくりに失敗しているからではなく、間違った製品を作って時間・お金・労力をムダにしているからです。
起業家のソリューションに対する情熱が、逆に失敗を招いているのだと思います。多くの人は、最初のアイデアを重要視しすぎます。製品の成功と失敗に関する調査によると、それではいけないということがわかります。
統計的に見れば、最初のアイデアが期待どおりうまくいくことはほとんどありません。成功する起業家というのは、最初から完ぺきなアイデア(プランA)を持っているのではなく、リソースを使い果たす前にうまくいくプランを見つけているのです。
この最後の部分が重要です。
3)あなたはよく「絶対に必要な課題」という言葉を使いますね。読者のために、詳しく説明していただけますか。
顧客というのは、Ruby on Railsで構築されているから製品を購入する、わけではありません。
顧客はソリューションではなく、自身の課題のことを考えているのです。
さらに言うと、課題はすべて等しいわけではありません。「絶対に必要な課題」とは、顧客の心のなかにある上位の課題のことです。それが正確にわかれば、「正しい」製品の構築はずっと簡単になるでしょう。
4)あなたの著書『Running Lean』では、実用最小限の製品(MVP)について触れていらっしゃいますね。それは何でしょうか。なぜスタートアップにとって重要なのでしょうか。
MVPとは、構築する最小限のソリューションのことです。顧客に価値を届けて、できればこちらも価値を受け取ります。つまり、お金です。
スタートアップにとってMVPが重要なのは、成功までにかかる時間とリソースが有限だからです。それに、プランAはうまくいかないのです。
成功というのは、ビジョンを盲目的に実行することではなく、顧客と一緒にフィードバックループを構築し、継続的に学習することで実現できるものなのです。
MVPを使えば、この継続的フィードバックループが構築できますし、手遅れになる前に、道筋を修正したりビジョンを改良したりできます。
5)日本でもリーンスタートアップの考えに注目が集まっています。技術の世界だけでなく、ビジネスの世界でもそうです。その理由は何だと思われますか。
みんなに役立つものがそこにあるということなのでしょう。リーンというのは本来、ムダを減らしてリソースを効率化するというものです。
技術の世界では、スタートアップを構築する合理的な手法として受け入れられています。科学的手法をもとにしており、これまで科学ではなく技芸と考えられてきた成功する製品の構築プロセスをわかりやすく説明しています。
ビジネスの世界では、スタートアップのリスクを軽減するために、効率的に資本を使う手法として受け入れられています。信念に大きな賭けをするのではなく、事実をもとにした学習のマイルストーンを設置して、計測や調整をしながら進みます。
6)今回、『Running Lean』の日本語版発売にあたって来日されますが、日本にいらっしゃるのははじめてですか。今回の旅では、何をされたいですか。
はい、はじめてです。とても楽しみにしています。新しい場所に行って、起業家のみなさんとお会いするのが大好きです。
日本には特に興味を持っています。リーンスタートアップは、大野耐一氏によるトヨタ生産方式に大きな影響を受けているからです。
7)日本に滞在中に講演をなさる予定ですが、参加者のみなさんにはどのようなメッセージを伝えたいですか。
私が伝えたいメッセージは、起業家の本当の仕事です。起業家の本当の仕事というのは、大きなビジョンを掲げて「プラン」を実行することではなく、自分以外の誰かと対話をしながら、スタートアップのリスクを体系的に下げることなのです。
8)最後になりますが、東京でのあなたの講演をお聞きになれない日本の起業家のみなさんに、何かアドバイスをお願いします。
起業家になるのに今ほど適した時期はないと思います。ツール・資本・知識は、今までよりも簡単に手に入るようになりました。
ただ、多くの製品が作られていますが、成功する製品の確率は向上していません。
我々はそれを変えることができます。
力強いビジョンを持つところから始めましょう。これは、盲目的にビジョンを追い求めろということではありません。
起業家は強い確信(belief)を持たなければいけません。確信と信念(faith)は違います。
信念(faith) = 盲目的な確信(blind belief - 裏付けがないこと)
確信から信念を切り離しましょう。