オープンソースソフトウェア

彼らはいかにしてビジネススタンダードになったか


<<本書紹介>>

 ここでは、目次をベースに各章の内容を簡単に説明する。( )内は各章の執筆担当者である。また、各章のタイトルは書籍と異なることがある。

●はじめに(Chris DiBona, Sam Ockman, Mark Stone)
 オープンソースの全体的な背景や重要なトピック、象徴的な事件などを紹介。

●ハッカー帝国史(Eric Raymond
 コンピュータの登場とともに「真のプログラマー」とは何か?という議論が繰り広げられるようになった。プログラマー達がいかにしてハッカー帝国を築いていったのか、その過程でインターネットはどのような役割を果たしてきたのか。こうした問題を、著者独自の切り口で分析している。「バザールと伽藍」などに見られる明敏な分析と考察が興味深い。

●BSD UNIXの20年(Marshll Kirk McKusiK
 著者は、Linuxよりも古く、UNIXの歴史とイコールといってよいBSD UNIX(バークレー版UNIX)の開発者(の一人)。初期の2BSDからVAX版、4.XBSDまでの歴史や開発経緯を、DARPAプロジェクトや、AT&TやUSLとの訴訟問題をからめて語る。

●IETF(Scott Bardner
 インターネットの規格や仕様は、他の工業規格や政府主導のプロジェクトとは異なる方法で規定されている。RFCという提案書がベースとなり、インターネット上で専門家やワーキンググループが議論し「推奨仕様」が採用されていくという、まさにオープンソース文化にふさわしい形態をとっている。この章は、その意義や手続きを解説している。

●GNUとフリーソフトウェア運動(Richard Stallman
 元祖フリーソフトウェアの教祖とも呼べる著者が、フリーソフトウェア、ソースコード公開のあり方、GNUプロジェクトやCopyleftと呼ばれているGNUのライセンス(GPL)形態、その目標、今後の展開、課題などを考察する。GNUの製品はオープンソースコミュニティでの標準的な開発・運用ツールとなっている。

●Cygnus Solutionsの未来−起業家のために(Michael Tiemann
 GNU関連製品の技術サポートやコンサルティングによって成功しているCygnus Solutions社の企業戦略を解説。オープンソースにビジネスチャンスを探している人にとっては示唆に富む内容。

●ソフトウェア工学(Paul Vixie
 インターネット上のアドレスを処理するための独占的標準ソフトウェアであるBINDの開発者が、オープンソースソフトウェアの開発作業について、その手法やノウハウを語る。これからのソフトウェア開発のひとつの指標となる内容。

●Linuxの強さ(Linus Torvalds
 リリース当初は決して評価が高くなかったLinuxのカーネル(OSの「核」)の設計について、発展の経緯、多数の人間が開発に携わりがら安定した性能を出すようになった秘密や、今後の開発目標や方向について述べる。技術者だけでなく、今後の動向を探るうえでマーケティング担当者必読の章。

●Red Hatの新しいモデル(Robert Young
 Linuxの配布パッケージでは世界的な標準といえるRed Hat社の企業戦略やノウハウをCEOが語る。新しいビジネスモデルの考え方が述べられている。

●勤勉、忍耐、謙遜(Larry Wall
 Perlの開発者による、極めて哲学的なプログラミング論。そして、Perlコミュニティやオープンソースコミュニティの存在を独自の視点で語る珠玉のエッセイ。タイトルは、プログラマーに重要なのは「無精、短気、傲慢」であるという筆者の持論のもじりである。

●オープンソースのビジネス戦略(Brian Behlendorf
 著者自身の開発したApacheを例にとり、マーケットでの成功やオープンソースとの関連、ビジネスとしての考え方を、AOLとのHTTPの仕様変更にまつわるトラブルなどを交えて述べる。最近の動向としてCVS(分散したソースコードの改変や変更を管理するシステム)にも触れている。

●オープンソースの定義(Bruce Perens
 ソースコードを公開するという点に着目し、最近の動きに的を絞ってオープンソースの定義を試みる。これは、Open Source Initiativeの公式の定義でもある。同時に、各種フリーソフトウェアのライセンス形態を比較検討する。

●ハードウェア、ソフトウェア、インフォウェア(Tim O'Reilly
 現在は、ハード、ソフトという分類だけでなく、インターネットのコンテンツやそこに流通するソフトウェアを総称してインフォウェアと呼ぶべきだ、という筆者の持論を展開する。ソフトウェアの開発や流通はメーカだけが行なう必要はないという考え方に基づき、インフォウェアの意義を説き明かす。

●ソースコードを自由に(Jim Hamerly他)
 Netscape社がソースコードを公開したブラウザソフトMozilla。その誕生から今日までを俯瞰し、私企業によるオープンソース開発プロジェクトの可能性を考察する。オープンソースに対して企業が出したひとつの答えである。

●ハッカーの逆襲(Eric Raymond
 冒頭の「ハッカー帝国史」を受けて、初期のころは企業理論によって抑圧されたハッカーたちの思想や活動がいかに現代に認知されたか、いかに企業に対峙できる存在になっていったのかを語る。

・付録A:Tanenbaum-Torvalds対談
 オペレーティングシステムの設計について、世界的なコンピュータサイエンスの権威であり、自らもMINIXという教育用ソースコードフリーなオペレーティングシステムを80年代半ばに開発していたオランダのTanenbaum教授と、Linuxの開発者であるTorvalds氏とのインターネット上でのディベートの転載である。知る人ぞ知る、comp.os.minixニュースグループで展開された「Linux is obsolete(Linuxは時代遅れだ)」の引用である。

・付録B:オープンソース定義Version 1.0
 本文でも触れているオープンソース定義の全文+GPL(GNUゼネラルパブリックライセンス)の全文。


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