松浦氏:ラフさんの本の翻訳版が日本でもついに出版されましたね。おめでとうございます。
ラフ氏:広く知られている通り、日本にはゲームを楽しむという文化が古くからあるので、ゲームが重要なメディアとして認められています。その日本で私の本が翻訳出版されたことを本当に嬉しく思っています。他の国でも日本のようにゲームが認知されているかというと、残念なことに、まったく、そうではありません。世界中の国々では、そのほとんどが、ゲームは単なる子供用の玩具としかみなしていないのです。私の本が日本で翻訳出版されたことで、日本のゲームコミュニティの発展に少しでも貢献できればと思っています。
松浦氏:早速質問させていただきます。日本では携帯電話向けゲームが人気で、2006年はインターネットに参加する形式のゲームが増えてきそうです。ラフさん自身は、現在まだ欧米ではブレイクしているとは言えない携帯ゲーム市場をどう見ているのでしょうか? 特にアジア圏における「携帯とライフスタイルの独特な関係性」が、欧米ではどうなっていくのかに興味があります。アジア圏には、何でも携帯電話だけで済ませてしまい、PCを使わない若いユーザーの世代がたくさんいます。
ラフ氏:米国での携帯電話の使われ方が、ヨーロッパやアジアでの使われ方より遅れている理由はいくつかあると思います。ヨーロッパにおける携帯電話の使われ方は、日本や他のアジアの国々に似ていて、米国よりも進んでいると言えます。ヨーロッパやアジアでは、とても軽快に携帯電話が使えるようになっているのです。ところが、ここ米国では、法整備の面ですら、変えなければならない要件が数多く残されており、それらに対して何を採用すべきかを云々する以前に、携帯電話関連の事業が果たす役割を変える必要があると思います。さらに米国では、いまだに国内の全地域で携帯電話が完璧に使えるわけではない有様ですから、携帯電話のサービスが提供可能な範囲なども大きな問題になってしまうわけです。
松浦氏:ある種の専門家がゲームを開発者する場合、その人間の考え方や姿勢、興味の向く先などの要素が、出来上がってくるゲームに影響すると思いますか?
ラフ氏:そう思います。ゲームを開発するときには、自分自身が持つ知識や経験をゲーム開発の現場に誰もが持ち込もうとします。映画製作に関わった経験がある人は映画のようなゲームを作りたがるものです。ミュージシャンとしての経験がある人なら、音楽的要素をゲームに取り入れたがるわけです。同様に、何らかの専門家であれば、ゲームを制作するうえで発生する問題に対して皆、別の取り組み方をすることになるでしょう。
もちろん、専門家になるのにも、色々な経歴が考えられるため、一口に専門家といっても、ハードウェア、ソフトウェア、インターフェイスデザイン、工業デザイン、構造設計など様々な分野の方々が存在しています。専門家それぞれの知識が、ゲーム開発の現場に、違った観点や価値観からなる多様な要素をもたらしてくれるのだと私は考えています。
私個人は、幅広い分野に及ぶ本を多読して、常に自己啓発し続けていくのが好きです。より多くの題材について学び続けていくことこそ、精神的な柔軟性を保つ最良の方法です。私の場合、こういった習慣がゲームデザインという仕事をする上で大きな助けとなってきました。
松浦氏:次にゲームで遊ぶ側の人についてですが、日本のゲームプレイヤーと米国のゲームプレイヤーの違いは何でしょう? また、米国から見た、日本と韓国と中国の違いはどうでしょう?
ラフ氏:目に付く大きな違いは、人が心地良いと感じる芸術様式が何か、団体行動に比べて個人主義の尊重がどのくらい美徳と見なされているか、直接激論を戦わせることがどのくらい受け入れられるのかなどの、文化面に関係があるように思えます。私の所見としては、それら多くの文化的な差異はインターネットの爆発的な普及に伴い無くなりつつあるように思えます。
現在時点のことだけを論じるなら、韓国や中国のゲームプレイヤーは、非常に競争を好む傾向にあると思います。オンラインゲームという私個人の専門技術分野に関していうと、韓国や中国のゲームプレイヤーは大規模な集団を作って遊ぶゲームや組織対組織で対戦するゲームなどを好む傾向にあります。(これは米国でも変わりつつありますが)韓国や中国のゲームプレイヤーは米国のゲームプレイヤーに比べて個人対個人でプレーヤー同士が競い合うPvP(Player VS Player)形式の対戦ゲームを気楽に受け入れてくれます。一般的に、見た目が「可愛らしい」ゲームを、アジアのゲームプレイヤーに比べ、米国のゲームプレイヤーはあまり歓迎しません。むしろ、かなり暗くて、ざらついていて、現実的な外観を持ったゲームのほうを好みます。日本のプレイヤーは、米国では珍しいと見なされるゲームスタイルを歓迎します。例えば、恋愛シミュレーション(dating sims)やビーマニ(Bemani)シリーズのゲーム、あるいは、もっと実験的なゲームなどです。
松浦氏:最後に、開発者の教育や育成について質問させてください。日本の大学でゲームプログラマー養成講座を作るには、どんな教科書を使って、どの分野の何を勉強させるべきだと思いますか?
ラフ氏:優れたゲームデザイナーになる最良の方法は、特定の分野のみに特化するのをできるだけ避け、長い時間をかけて一般教養課程の教育を受けることだと私は信じています。文章の書き方、絵の描き方、音楽の作り方を学び、歴史、芸術、建築、文化全般を学んでください。心理学と科学について学んでください。スポンジのように、できるだけ多くのことを吸収してください。ゲームは現実世界を写す鑑です。ゲームを制作する際、現実世界における知識が広がれば広がるほど、ゲームの世界に取り込める内容も豊富になるでしょう。
松浦氏:ありがとうございました。最後に日本の読者の皆さんにメッセージをお願いします。
ラフ氏:私のメッセージはいつも同じです。楽しんでください。しかし、決してそれだけで満足しないでください。楽しむというのは、自分がうまくやり遂げたことに対する喜びを十分に満喫し、もっとうまくできたはずだといって自分自身を責めてはいけないという意味です。そして、満足しないというのは、それが自分ができる最大限の成果だと思ってはいけないという意味です。常に達するべき今以上の高みが存在しており、そのためにやらなければならないことがもっともっと沢山あるはずだからなのです。
日本の皆さんが本書を楽しく読んでくれることを願っています。