夏目 大(なつめ・だい):
1966年大阪府生まれ。翻訳家、フリーライター。訳書に『802.11セキュリティ』(オライリー・ジャパン)、『シティバンク 勝利の複雑系』『15時間集中講座 Java2』(コンピュータ・エイジ社)、『シェーキーの子どもたち』(翔泳社)、著書に『よくわかるJava』(翔泳社)などがある。
URL●http://www.bitpranks.com/garage/natsume/
——今回の「Head First Java」は、ストレートな技術解説が中心の、他のオライリーの本とは異なり、短編ミステリー、テレビのパロディ、漫画的な表現が混在する、変わったスタイルなのですが、翻訳を担当された夏目さんの目から見て、この本のどこが一番すごいと思いますか?
夏目:この本は、おっしゃるように、そのユニークなスタイルも大きな特徴だと思います。しかし、それ以上にすごいのは、「基本の基本」の部分を逃げずに丁寧に説明してくれる、という点だと思います。学生時代に先生に「これはこういうものだから、わからなくても覚えておけばいい」などと言われ、釈然としない気持ちになった人は多いと思いますが、この本に関してはそういう心配はいりません。単にJavaが使えるようになるだけでなく、「こうすればこうなる」という理屈が根っこの部分から理解できます。これはまず学習が楽しくなるということにつながりますし、後々の応用力にも影響すると思います。本当に今までなぜこういう本がなかったのか不思議なくらいです。
——翻訳の際に一番苦労したのはどのようなところでしょうか?
夏目:この本の特徴の1つとして「ユーモア」があげられると思うのですが、ユーモアは言語、文化に大きく依存するので、英語では面白くても日本語ではつまらない、アメリカ人には面白くても日本人にはつまらない、ということが多いのです。そのあたりをどうするかで少し悩みました。「ファミリー・タイズ」など、アメリカのシチュエーション・コメディーが結構好きで、以前に、そうしたドラマの吹き替えを原語と対照したことがあるのですが、そうした体験が役に立ったと思います。結局は日本人が読むのですから、ユーモアも日本人向けにかなり「しょうゆ味」にしたところが多いです。ただ、やはりオライリーの本であり、翻訳ものなので、ある程度の「バタくささ」は残しました。古い言葉ですが「舶来」のよさは出したかったというか……。
——逆に、翻訳が一番楽しかったページは?
夏目:「大変」「苦労」というのと「楽しい」は、翻訳の場合、表裏一体なんですね。たとえば、「5分間ミステリー」のページなんかは、ちょうど、ハヤカワミステリっぽい文体で訳すとちょうどいい感じで、そういう文章を書くこと自体は楽しいのですが、技術的におかしなことは書けないので、きちんと調査して裏づけをとりながら、文体も読み応えのあるものにする、というのは結構大変でした。「訳者冥利につきる」という仕事でもあるのですが……。また、本物のハヤカワミステリの名作ものの文章は今、そのまま書くといかにも古いので、あくまで「雰囲気」にとどめる、というのもなかなか骨が折れる仕事です。
——翻訳にはどのくらい期間がかかったのでしょうか。
夏目:正味3か月ちょっとだと思います。もう少し早くできると思ったのですが、意外に時間がかかりました。
——「Head First Java」には、Javaやオブジェクト指向のことをわかりやすく伝えるため、さまざまな例え話、比喩が登場します。特に「これはうまい」と思ったところを教えてください。
夏目:そうですね。色々あるのですが、オブジェクトのロックの説明をするときに「夫婦が同じ銀行口座を共有していてトラブルになっている」というエピソードを持ってくる、というのはわかりやすかったですね。それから、データ型のサイズの説明のところで、型をコーヒーのカップにたとえたのもよかったと思います。あとは、オブジェクトの参照をリモコンにたとえる、というアイデアもいいと思いました。
——ここからは「オライリーの本を翻訳しているのは、どのような方なのか?」ということで、夏目さんご自身のことについて伺いたいと思います。翻訳家になったきっかけはなんだったのでしょうか? これまでにどのような本/文書を翻訳されているのですか? またJavaとの関わりも教えてください。
夏目:翻訳家になったきっかけは、ちょっと不遜ですが、「他の人の仕事を見て、自分にもできそうだと思ったから」です。実際にやってみると、結構大変だったのですが。これまでにはIT関連の本をはじめ、科学ものや経済もの、それからメジャーリーグのイチローに関する本やギネスブックなんかも訳しました。Javaとのかかわりは結構長いです。最初(98年)に訳した本が偶然にも「JDBC」の解説書だったので……。最初は「アプレット」くらいしか知らなかったので訳は大変でした。結局ゼロから勉強することになってしまいました。今はようやくわかるようになってきましたが。
——翻訳の時に、こころがけていることはありますか?
夏目:最も重視しているのは、訳文を、人の読む気をそそるような日本語にする、ということです。英語を日本語に変換する、という発想でやっている人も多いようですが、それだと「生きた日本語」にならないんですね。「生きた日本語がどういうものか」は ちょっと説明が難しいのですが……。
——自宅で翻訳をしている時の一日のスケジュールを教えてください。
夏目:だいたい朝は8時前に起きて、仕事を始めるのは9時前くらいです。12時過ぎには昼食に出ます。横浜に住んでいるのですが、元町や中華街、山下公園付近、関内周辺、みなとみらい、本牧などを順に回っている感じです。散歩がてらというか、ついランチタイムが長くなってしまうのが難点です。3時前には家に戻るようにしていますが。戻った後は夕食をとる(家で食べることが多いです)以外はほぼ仕事です。合間合間にビデオにとっておいたテレビ番組やDVDを結構見ているので、ギッチリ仕事、という感じでもないですが。
——今後の予定を教えてください。
夏目:今は、主にオライリーのPythonの解説書(編注:『初めてのPython 第2版』)を翻訳しています。PythonにはJavaとはまた違った面白さがあるので、結構楽しんでいます。あとは某社からサイエンスものの本(書き下ろし)を出す予定で進めているのですが、これがなかなか難航しています。まだ序盤、という感じです。年内にはなんとかしたいと思っています。
——どうもありがとうございました。